「このビジネスの収益の範囲をどこまでと考えるべきか」
「この事業とあの事業は、別々に採算を考えるべきか、それとも一体として捉えるべきか」
こうした判断に悩むことは、ビジネスではしばしば起こります。
とくに、社会貢献性の高い事業や、新しい価値の創造を目指す事業では、この判断が成否を分けることも少なくありません。
この記事では、ビジネスモデルにおける「系(けい)」という考え方をご紹介します。
これは、「どこまでを1つのビジネス単位として捉えるか」を考えるための重要な視点です。
さらに、近年急速に発展しているAI技術が、この「系」の考え方にどのような可能性をもたらすのかについても探っていきます。
「系」について
ビジネスモデルには「系」があります。
ビジネスモデルの「系」とは
「どこまでを1つのビジネス単位としてとらえるか」
という、範囲のことを言います。
JRを例に挙げます。
JR東日本という会社は非常に大きな会社ですが、その事業を分解すると
- 運送業
- ホテル事業
- 旅行代理店
- 広告代理店
- 車両の製造業
など、さまざまな事業で成り立っています。
この複合体の全体を1つの「系」すなわちビジネス単位として見ることができます。
その場合、
個々の事業には黒字のものと赤字のものが混在していても、全体として黒字になればビジネスが存続する
という考え方が成立します。
いっぽう、1つ1つの事業をそれぞれ独立の「系」とみなして考えることも可能で、その場合は、
- 黒字の「系」は存続しますが
- 赤字の「系」は存続が難しくなります。
さらに、JR東日本の「運送業」の部分だけを掘り下げて細分化することも可能で、
- 東北新幹線という「系」
- 山手線という「系」
- 中央線という「系」
などを設定することができます。
この場合も黒字の「系」は存続しますが、赤字の「系」は存続が難しくなります。
しかし、
- 赤字路線があるおかげで黒字路線が恩恵を受けている
- もし赤字路線をやめてしまえば黒字路線の採算が大幅に悪化する
という、「相互に影響している」ケースもありえます。
そのようなときは赤字路線と黒字路線を別々の「系」とみなすのはよくありません。
1つの「系」として扱うべきでしょう。
このように、「系」の設定のしかたでビジネスのありかたも変わってきます。
「系」の語源
有名な物理法則の1つに「質量保存則」があります。
「化学反応の前後で『系』の質量は変化しない」
という法則。
ここに「系」という概念が登場します。
100グラムのロウソクに火をともしてしばらくたつと、ロウソクは軽く(小さく)なっています。
しかし実はロウの成分が酸素と反応し(=燃焼)、違う成分となり、空気中に散っただけ。
ロウソクじたいは軽くなっていますが、周囲の空気を含めた総質量は変化していません。
ロウソクと火だけを「系」としてしまうと質量保存則は成り立たないのですが、周囲の空気を含めた全体を「系」と考えることで質量保存則は守られます。
つまり「系」とは
- 「全体で調和がとれている1つのまとまり」
- 「細部には凸凹があるが全体で辻褄が合っている1つのまとまり」
のような意味あいの言葉です。
「系」を正しく設定しよう
この「系」の考え方は、これからビジネスモデルを組み立てるときにも重要な要素です。
とくにソーシャルビジネス、すなわち社会貢献度の高い事業を計画する際によくあることの1つに
社会に貢献しようとすればするほど、どうやって収益をあげるかよい考えが浮かばず、壁にぶつかる
ことがあります。
そんなとき、「系」の設定を見直すことで、その壁を越えることが可能になります。
たとえばアメリカ西海岸にあるとあるNPO。
家出した少年少女を受け入れる施設を運営し教育などを行っています。
ですが、それだけでは経済的にうまく回りません。
この施設の運営だけを「系」として決めつけてしまうと、赤字になってしまいます。
しかし、実際にはこのNPOはアイスクリーム屋を出店しています。
そのアイスクリーム屋が非常においしいので高い人気を誇っており、チェーン展開をするまでになっています。
アイスクリーム店が十分な利益を上げているので、施設の活動が支障なく行われているのです。
また、アイスクリームの利益が施設の運営に使われていることを知っている顧客が多く、かえってアイスクリーム店の評判を高めています。
「SDGs的なアイスクリーム店」
という評判になっています。
家出少年少女のケア施設とアイスクリーム店。
別々の「系」として考えると、片方は赤字、もう片方は黒字です。
「赤字のケア施設なんかやめてしまえ」
「アイスクリーム店だけをやっていればいいじゃないか」
という話になりかねません。
しかし、そもそも、家出少年少女を何とか助けたいから、このNPOはアイスクリーム店を経営しているわけで。
ケア施設を廃業してアイスクリーム店に特化するという選択肢は、このNPOにとっては意味がありません。
ケア施設とアイスクリーム店、両方を合わせて「1つの系」と見なすことで、はじめて事業として成立しています。
「細部には凸凹があるが 全体で辻褄が合っている」
といえるのですね。
AIで広がる「系」の可能性
これまで見てきた「系」の考え方を、AIでさらに高度化することができます。
なぜなら、AIは従来は別々だと考えられていた事業や活動を、効果的につなぎ合わせる力を持っているからです。
先ほどの家出少年少女のケア施設とアイスクリーム店の例で考えてみましょう。
もしも、このNPOがインハウスAIを活用すれば、両事業の相乗効果をさらに高めることができます。
たとえば、アイスクリーム店の売上データや顧客の反応をAIが分析し、「社会貢献に関心の高い顧客層」の特徴を把握します。
その分析結果を基に、施設の活動をより効果的に伝えるマーケティング戦略を立案できます。
施設での教育活動においても、AIは重要な役割を果たせます。
生徒一人一人の興味や適性に合わせた学習プログラムの作成や、アイスクリーム店での接客トレーニングなど、AIを活用することで、支援活動の質を高めることができます。
このように、AIは単なる効率化ツールではありません。
異なる事業や活動を有機的につなぎ、新しい価値を生み出す「系」の形成を支援してくれるのです。
「系」の設定は時として難しい判断を伴います。
しかし、ここでもAIは強力な支援者となります。
たとえば、料理教室を運営している方が、レシピ本の出版やオンライン講座の展開を検討している場合。
これらの事業を別々の「系」として捉えるのではなく、分身AI(アバターAI)を活用することで、一体的な展開が可能になります。
講師の知識と経験を学習した分身AIは、生徒からの質問対応、レシピのアレンジ提案、オンライン講座でのサポートなど、複数の役割を24時間365日こなすことができます。
これにより、講師は対面での指導に集中しつつ、活動の規模を拡大できるのです。