専用のビジネスモデル

「専用」という言葉には、不思議な魅力があります。

「これは○○専用です」と言われると、なぜか興味をそそられ、つい手に取ってしまう。

そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 

この「専用」という考え方には、ビジネスの価値を高める重要な知恵が隠されています。

さらに興味深いことに、この知恵は最新のAI技術の世界でも、まったく同じように活きているのです。

身近な商品の事例から、最新のAIビジネスまで。「専用」という切り口で見えてくる、価値創造の原則についてご紹介していきましょう。

 

では、養成講座ビジネスの世界をのぞいてみましょう。

タマゴ編

「タマゴは物価の優等生」と言われることがあるように、半世紀前からこのかた、タマゴの市場価格はあまり変わりませんでした。

(近年はそうでもないようですが)

 

買うほうとしては価格が安定しているのはありがたいことです。

しかし生産者側としては、生産コストが変動するなかで市場価格に合わせるのは、楽ではありません。

合理化を進めるにも限界があります。

 

そこで、タマゴの販売価値を高めようという工夫をするわけですが、さまざまある工夫の1つに

「○○専用」

という考え方があります。

 

「タマゴ焼き専用」

「親子丼専用」

「オムレツ専用」

「カルボナーラ専用」

こうしたタマゴが登場しています。

 

ニワトリの品種や食べさせる飼料によってタマゴの味に微妙な違いが生じてきます。

ハーブを食べさせることもあるそうです。

その結果、

  • 黄身が濃厚になったり
  • 逆にあっさりしたり
  • 食感が硬くなったり
  • 逆に柔らかくなったり

変化します。

 

この変化を活かし

「○○専用」

とすることで、タマゴの価値が上がります。

高値で売れるようになります。

 

飼料の質を上げたり手間をかけたりする必要はありますが、そのコストを大きく上回る商品価値が期待できます。

醤油編

同様の例として

「○○専用の醤油」

があります。

 

「タマゴかけごはん専用」

「焼き魚専用」

「餅専用」

などなど。

 

近年はアイスクリームやプリンに醤油をかけることもあり、

「アイスクリーム専用」

「プリン専用」

の醤油もあります。

 

これらの「専用醤油」は一般的な醤油より高い商品価値となります。

開発に手間や時間がかかりますが、そのコストを大きく上回る商品価値が期待できます。

「おもしろい醤油がある」

ということでメディアに注目されたりもします。

巻尺編

そのほか、

「長さが85センチしかない巻尺(メジャー)」

というものもあります。

 

ふつうの巻尺は、3メートルから5メートルくらいあり、わりと何でも測れるようになっています。

つまり長めになっているものがほとんど。

 

ですが、この巻尺はたった85センチしかありません。

なぜならこの巻尺は

「中年のオジサンの腹囲(お腹まわり)を測定するだけのもの」

だからです。

 

厚生労働省の基準では、中年男性の腹囲が85センチを超えると、メタボリック・シンドローム(メタボ)と診断されます。

つまり「85センチ」というのは、メタボかどうかを判断する基準です。

 

「メタボ」という言葉が流行したころ、この「85センチ限定の巻尺」が勢いよく発売されていました。

しかも、本来の「長い=何でも測れる」巻尺より高い値段で…。

ここまでのまとめ

前述した「タマゴ焼き専用」のタマゴは、目玉焼きにしても美味しく食べられるでしょう。

それでも、あえて「タマゴ焼き専用」として販売されています。

 

「アイスクリーム専用」の醤油は、刺身にかけても納豆にかけても、問題ないはずです。

それでも、あえて「アイスクリーム専用」として販売されています。

 

「85センチしかない巻尺」は、わざわざそんなものを買わなくても、ふつうの長い巻尺を使えば腹囲だって測れます。

それでも、あえて「85センチしかない巻尺」を買う人がいます。

 

このように、あえて

「○○専用」

と謳い、用途を絞ることで、注目度を上げたり商品価値を上げたりすることが可能となるんですね。

専用AIの時代

これまで見てきた「専用」という考え方は、実はAIの世界でも同じように価値を生み出しています。

私たちのAIコンサル工房では、汎用的なAI(私たちは「素のAI」と呼んでいます)を基盤に、特定の目的や用途に特化させた「専用AI」を開発することに取り組んでいます。

タマゴや醤油の例と同じように、汎用的なAIを「専用化」することで、その価値は大きく高まるのです。

 

たとえば、あるコンサルティング会社の事例をご紹介しましょう。

この会社では、ChatGPTを使って顧客との商談記録の要約や提案書の作成を行っていました。

しかし、一般的なChatGPTでは会社特有の専門用語や商談スタイルを理解できず、出力される内容は表面的なものに留まっていました。

そこで、この会社専用のAIが開発されました。

過去の商談記録や提案書、社内マニュアルなどを学習させ、会社の商談スタイルや価値観を理解したAIです。

その結果、商談後の報告書作成時間は3分の1に短縮され、提案書の品質も大きく向上しました。

 

この「専用AI」は、まさに「タマゴ焼き専用」の卵のように、特定の用途に最適化されることで、より高い価値を生み出したのです。

 

汎用的なAIでもある程度の仕事はこなせます。

しかし、あなたのビジネスに特化した「専用AI」は、あなたの会社の言葉を理解し、あなたの商品やサービスの特徴を把握し、あなたの顧客の特性を知った上で仕事をします。

85センチの巻尺がメタボ判定に特化したように、専用AIはあなたのビジネスに特化した存在となるのです。

 

面白いことに、専用AIの価値は、使えば使うほど高まっていきます。

日々の業務での活用を通じて、あなたのビジネスをより深く理解し、より適切なサポートができるようになっていくからです。

これは、醤油職人が長年の経験を重ねて腕を上げていくのと似ています。

 

ビジネスの世界では、「専用」という言葉は単なるマーケティング用語ではありません。

それは価値を高め、競争力を生み出す重要な戦略なのです。

そして今、AIの時代においても、この原則は変わらず生きています。

 

あなたのビジネスに特化した専用AIは、きっと新たな可能性を開いてくれることでしょう。