「元締め」という言葉、ちょっと怪しげな響きがありますよね。
私たちの周囲には「元締め」的なビジネスモデルが意外とたくさんあるんです。
保険会社だって元締めです。
カラオケボックスだって元締めです。
みんなが歌って楽しむ場所を提供し、その場所代を徴収する。
これって立派な「元締め商売」。
最近では、AIの進化に伴って、こうした「元締め」的発想のビジネスモデルが、より洗練された形で登場してきています。
今日は、そんな話。

カジノでも何でも、元締めが儲かるというのは知られた話です。
でもこれ、「元締めの立場にさえなれば、誰でも儲かる」というのは間違い。
元締めだって、設計を間違えたら損します。
正解は、「得をするように設計した元締めだけが儲かる」です。
さて、ダイエットって、現代人の永遠の課題ですよね。
夏が近づくたびに「今度こそ痩せる!」って決意するけど、気づけば翌年の夏の話になっている…なんて経験、ないでしょうか。
海外での研究によると、肥満者向けの減量プログラムに金銭的インセンティブをつけると、減量の成功率が大幅に向上することが示されています。
要するに「痩せたら賞金がもらえる」と聞けば、人はやる気を出します。
米国などでは、こうした金銭的インセンティブを用いた減量プログラムの研究が進んでいます。
こうしたプログラムを利用し、「ダイエットの元締め」をしている会社があります。
「ヘルシーウェイジ」という米国の会社も、その1つ。
この会社の顧客になるのは、
「痩せたい人たち」
です。
たとえば、アラフィフのジョン。
昔はバスケ部のエースだったのに、今ではビール腹。
そんな彼が「賭けの費用は1万円。でも5キロ痩せたら賞金10万円!」という条件でヘルシーウェイジに挑戦。
ピザ大好きのジョンは、晴れて賞金をもらえるのか?
という感じ。
- 顧客は、自分の体重の減量目標を宣言してお金を賭けます。
- ヘルシーウェイジ側は、その賭けを受けます。
ようするにヘルシーウェイジは「賭けの元締め」になります。
宣言どおり体重が減れば、顧客は賞金がもらえます。
しかしダイエットに失敗すれば賭け金は戻ってきません(元締めが没収します)。
無情にも没収です。
体重が減らないまま財布だけ軽くなるという。
細かいことを書いておきますと、
- 減量目標やその期限、賭け金は顧客側が決めます。
- 賞金は難易度や賭け金により変動します。
減量開始のときの体重と終了時の体重については、正直な申告が行われるように、
- 審判員による確認
- 指定された方法での証明
が必要となっています。
賞金ほしさのあまり、体を壊すほどの無理な減量をする「不届き者」もいるので、極端な減量目標を立てても賞金がさほど増えないような計算式になっています。
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前述したように、このビジネスモデルは学術的エビデンスにもとづいて開発されたもの。
「人はどんなときに真剣に減量するのか」
という研究がかねてからハーバード大学などで行われていましたが、その結果、
- 金銭的なインセンティブがあれば、減量に真剣になる
- 損したくないという不安を刺激すれば減量に真剣になる
ということが科学的にも確認されたため、このシステムが考え出されました。
ただし、皮肉な話ですが、このシステムが持続するためには、元締めが得をしないといけません。
つまり、
- A:「賭け金より賞金が少ない」=勝っても負けてもヘルシーウェイジ社側に利益が残る
- B:「一定の確率で減量が失敗する」=ヘルシーウェイジ社が勝つ確率のほうが高い
どちらかである必要があります。
じゃないと、元締めのヘルシーウェイジ社は潰れてしまいます。
原理としては、保険商品に似ていますね。
A、B、どちらなのかは企業秘密。
でも確かなのは、今のところヘルシーウェイジ社は、順調に売上を伸ばしているように見えるということ。
保険商品と同様、統計学をバンバン使い、綿密な確率計算をしているのでしょう。
その計算には、たぶんAIを、ちゃっかり活用している。

さて、このビジネスモデルを見ていて思うのは、AIとの相性が抜群によいということ。
理由は明快です。
このモデルの成功には
- 綿密な確率計算
- 顧客の行動理解
この2つがあればいいわけですが、これはまさにAIが得意とする分野だからです。
たとえば、ダイエットジム向けのインハウスAIを作ったとしましょう。
このAIは、
- 会員データを分析して「この人は目標達成できそうか」を予測するのが得意です。
- 人間では気づきにくいパターンも見つけ出します。「土曜の午後3時以降に入会した人は目標達成率が低い」なんて相関関係も。
ヘルシーウェイジのようなビジネスモデルでも、AIは確率計算のほか、さまざまな場面で活躍できそうです。
たとえば…。
励ましの声をかけてくれる分身AI(アバターAI)を、期間中、顧客に有料提供。
深夜のアイスクリームの誘惑と戦っているとき、すかさず「ジョン、その誘惑に負けたら賞金がもらえないよ」と優しく諭してくれる。
アプリAIを使えば、顧客の生活パターンに合わせた「誘惑回避ルート」を提案することも可能。
「ミスドの前を通るとつい寄ってしまう」という顧客には、寄り道せずに帰宅できる別ルートを提案する。
そんな気の利いたサポートもできるわけです。
ビジネスの裏側では、インハウスAIが統計分析を行い、最適な賞金設定や期間設定を提案します。
人間の心理も考慮しながら、「挑戦しがいがある」かつ「達成できそう」と感じられる妙な塩梅を、AIは意外と上手に見つけ出すものです。
こう考えると、ビジネスモデルの設計と運営にAIを活用する未来は、もう目の前まで来ているのかもしれません。
それでも、大切なのは、相変わらず「人の心をつかむこと」。
AIはあくまでも、その実現を手助けしてくれるパートナーです。
さて、このコラムを読んで「AIってこんな使い方もできるんだ」と思った方、ぜひチャレンジしてみませんか?
あ、ダイエットのチャレンジじゃなく、AI活用のチャレンジです。
AIは決して難しいものではありません。
むしろ、文系の発想だからこそ見えてくるAIの使い方が多々あります。