「ヒト化するネコ」という言葉には、ユーモラスな響きもありますが、この現象は現代社会の興味深いトレンドを表しています。
ペットの位置づけが「飼う対象」から「家族」や「友人」へと変わり、それに伴うビジネスチャンスが広がっています。
この流れは、思った以上に大きなうねりとなっているようです。

かなり以前のことですが、散歩していて「眼科専門の動物病院」を見かけました。
動物病院といえば、「動物の種類は問わない」「病気の種類(診療科)は問わない」という固定観念がありましたが、もはやそういう時代ではないようですね。
人間の医療でも、お腹の調子が悪ければ内科や胃腸科、ケガをしたら外科や整形外科、耳の中が痛ければ耳鼻科、のように分かれていますが、ペットでもそういう分科が始まっているようです。
その後、別の場所を歩いていたら「高度医療専門の動物病院」も見つけました。
人間でも「病気かなと思ったらとりあえず近所のクリニックに行く(一次医療)」「なにか異常がみつかったら、専門の病院を紹介してもらう(二次医療)」といったシステムになっていますが、ペットでもそういうシステムになりつつあるようです。
▽
日本でのペットの数は「犬:700万」「ネコ:900万」と推定されています。
未確認ながら、「パンデミックの時期に人々が家で過ごす時間が増えたことで、ペットを飼う世帯が増加したのではないか」と推測しています。
ペット市場は「数」が増えていることだけでなく、「人間扱いをしたい」と考える飼主も増え、需要の内容も変化しています。
たとえば「食事」。
人間も近ごろは「オーガニック」「地産地消」「天然素材」「添加物や農薬がない状態」を食に求めるようになっていますが、ペットの食品にも同様なレベルのものを求めるようになっています。
飼主とペットは「親と子」のような関係性が強くなっており、「子供と同じコストをかけても構わない」という価値観が育ちつつあるようです。
そのため、
- 人間を相手にしていた食品会社が、ペット業界に参入できる可能性が出てきました。
- ペットの食事にも『地産地消』を求める飼主が増えたので、全国規模の食品会社よりローカルの食品会社にビジネスチャンスが出ているようです。
従来のペットフードは、原材料に何が含まれているのかを飼主が把握することが容易ではありませんでした。
したがって、有名ブランドであることが購入理由の上位、すなわち安心材料になっていました。
しかし近年、原材料や製造過程を詳しく公開する、透明性の高い中小メーカーが支持されるようにもなっています。
▽
昔は、ネコは「ペット」でした。
昨今は、世の中だんだんと
- ネコは同居する存在であってペットではない
- ネコの食事は「ご飯」であって「エサ」ではない
- ネコの食事はできるだけキッチンで自分で作ってあげたい
- ネコも定期健診にいく
- ネコの名前にも苗字がある
そういう感覚になっているように見えます。
すっかり「ヒト」扱いです。
犬も同じですね。

この「ペットの人間化」という現象は、AIの登場によって、さらに新たな次元に進化するかもしれません。
従来は「人間と動物の違い」が強調されてきましたが、AIの導入により、その隔たりが意外な形で縮まる可能性があるからです。
たとえば、ペットとのコミュニケーション。
「この子が何を考えているのか分かれば…」という飼い主の永遠の悩みに、AIが一石を投じるかもしれません。
研究によれば、猫の表情や身体言語のパターンをAIが学習することで、その感情状態や要求を高い精度で判別できるようになってきているようです。
「ペット翻訳アプリ」も誕生しています。
ペットの行動パターンをもとに、飼い主とペットの「会話」を可能にするものです。
「ゴハンちょうだい」の判別だけでなく、「今日のゴハンはイマイチだった」といった微妙なニュアンスまで伝えられるようになる日も、遠くないかもしれません。
ペットケアの最適化も進むでしょう。
たとえば、ペットの体調や好みを学習したAIが、その子に合った食事、運動、遊びのスケジュールを提案するシステム。
「うちの子は雨の日に特に甘えん坊になる」「この時間帯は必ず窓の外を眺めている」といった個性的な習慣まで把握して、ケアの質を高めることができます。
AIを活用して顧客のペットの好みや健康状態をデータベース化し、完全オーダーメイドのペットフードを提供するというビジネスモデルも構築可能です。
人間なみの食事管理をペットにも、という需要に応えたサービスです。
ChatGPTなどの生成AIを活用すれば、専門的な知識がなくても、顧客のペットデータを管理・分析するシステムを設計することができます。
▽
「ヒト化するネコ」のビジネスモデルは、単にペットに人間と同じサービスを提供するだけではありません。
ペットを通じたコミュニティ形成にも、AIが大きく貢献できそうです。
たとえば、「ペット専用SNS」では、AIがペットの趣味嗜好を分析し、相性の良さそうな他のペットと飼い主を引き合わせる機能を実装する。
「うちの猫は、白い猫が大好き」「うちの犬は、テニスボールで遊ぶのが一番の楽しみ」といった特徴をAIが把握し、最適なペット友達を提案するのです。
これは飼い主同士のコミュニティ形成にもつながります。
「あなたのネコと似た性格のネコを飼っている方が近所にいます」という提案がきっかけで、新たな交流が生まれるケースも少なくありません。
ペットの「思い出」をデジタル化する動きも出てきています。
ペットとの日々の写真や動画、健康記録などをもとに、AIがそのペットの「生涯ストーリー」を創り出すサービスです。
悲しいことに、ペットは人間より寿命が短いのが普通です。
大切な家族の思い出を、AIの力で美しくアーカイブする。
そんなサービスへのニーズは高まっていくでしょう。
▽
ペット市場におけるAI活用のメリットは、大企業だけのものではありません。
むしろ、小回りの利く小規模ビジネスにこそ、大きなチャンスがあります。
「ヒト化ペットビジネス」の本質は「個性を理解すること」。
大量生産・大量販売のモデルとは相性が悪く、逆にきめ細かなケアや独自性のあるサービスが求められます。
ここに、小規模ビジネスの強みがあります。
AIは、そんな小規模ビジネスの「きめ細かさ」をさらに強化してくれます。
たとえば、オーダーメイドの犬用おやつを作る小さな工房が、AIを活用して顧客データを分析し、「この犬種は〇〇の味を好む傾向がある」「〇〇歳を超えると食べられる量が〇〇グラム減少する」といった知見を得る。
そして、それをもとに商品ラインナップを最適化する。
こんな取り組みが、専門的な知識がなくても可能になっているのです。
「うちに来てくれるワンちゃんの中で、シャンプーを怖がる子が何割かいるんです。なんとかその子たちにも快適な時間を過ごしてもらいたいけど」
そんなペットサロンの要望に応えるのが、シャンプーを怖がる犬の特徴をAIに学習させ、来店前にその可能性を予測するシステム。
怖がりそうな犬には事前に特別なケアプランを用意し、飼い主にも協力してもらう。
このアプローチにより、犬のストレスが大幅に減少し、リピート率も向上するでしょう。
▽
ペットの「ヒト化」、その本質には人間の「つながりへの渇望」があるのかもしれません。
子どもの数が減り、核家族化が進み、人と人とのつながりが希薄になる中で、ペットとの絆はますます重要になっています。
AIは、そんなペットと人間の関係をより深く、より豊かにする可能性を秘めています。
ただし、AIはあくまでもツール。
ペットケアの本質である「愛情」や「思いやり」は、やはり人間にしか提供できません。
AIがどれだけ進化しても、ペットの頭をなでる温かい手の感触や、目と目を合わせたときの信頼関係は、人間にしか生み出せません。
AIは、そんな人間とペットの関係を「拡張」するものとして活用すべきでしょうね。
「ヒト化するネコ」のビジネスモデルは、単に効率化や利益向上のためだけのものではありません。
人とペットがより幸せに暮らすための新しい形を模索する旅でもあるのです。
その旅に、AIという新しい仲間を加えて、私たちはどんな未来を創っていけるのでしょうか。
その答えを探すのも、また楽しいことかもしれませんね。