私たちは「言葉足らず」です

ChatGPT教室でのひとコマ:講師と生徒の対話から~

 

ChatGPTをはじめとするAIツールの活用が広がる中、多くの人が「思ったような結果が得られない」という戸惑いを抱えているようです。

その原因の多くは、実は私たち人間側の「言葉足らず」にあるのかもしれません。

本記事では、あるビジネスパーソンとAI活用講座の講師との対話を通じ、AIとのより良いコミュニケーション方法、そして、それが人間同士のコミュニケーション改善にもつながる可能性について考えていきます。

「先生、AIって思ったような答えが返ってこないことが多いんですけど…」

 

ChatGPT教室の終了後、Eさんが話しかけてきました。Eさんは友人とリペアビジネスを立ち上げ、最近AIの活用を始めた方です。

 

「はい。それは多くの方が感じることですね。具体的にはどんな場面で感じますか?」

 

「たとえば先日、新サービスのキャッチコピーをAIに考えてもらおうとしたんです。でも、返ってきた案はピンとこなくて…」

 

「なるほど。そのとき、AIにはどんな指示を出されたんですか?」

 

「えっと…『かくかくしかじかの新サービスのキャッチコピーを考えてください』って」

 

「そういう一行の文章を入力したわけですね」

 

「はい、一行の文章で」

 

「ああ、それは確かに期待通りの答えは返ってこないかもしれませんね」

 

「なぜですか?」

 

「その新商品がどんな商品なのか、誰向けなのか、どんな特徴があるのか、そういった情報をAIは知らないままですからね」

 

「そうか…たしかに情報が足りなかったかも」

 

「人間同士の会話でも似たようなことってありませんか。言葉が足らなくて、誤解を呼んだような」

 

「(ちょっと考えて)あ、ありますね。以前、暑い日に同僚と電子機器の修理をしていたとき、喉が渇いたんで『タンサンを買ってきてくれない?』って頼んだんですが…」

 

「それで、どうなりました?」

 

「同僚がね、コンビニで単三電池を買ってきました。自分は炭酸飲料が欲しかったんですけど」

 

「ああ、『タンサン』っていう言葉の曖昧さですね。確かにその状況だと両方の可能性がある」

 

「そうなんです。同僚はいいやつだったから、もう一度買いに行ってくれましたけど」

 

「どのように言葉が足らなかったと思いますか?」

 

「そうですね。電池なのか飲み物なのかをはっきり言うべきだったですね。…あ、それを言わなくても、タンサンが欲しい理由を言えば、同僚も間違えなかったと思います」

 

「こういう『言葉足らずによる誤解』が、AIとの会話にも起きやすいんですよ。きちんと情報を与えないと、意図が正確に伝わらない。たとえば理由とか」

 

「なるほど」

 

「先ほどのキャッチコピーの件でも同じことが言えます。『かくかくしかじかの新サービスのキャッチコピー』という言葉だけでは、AIにとって状況が曖昧すぎるんです」

 

「人間同士だと『あ、これのことか』ってすぐわかりますよね」

 

「ええ。人間同士の場合、共通の文脈や経験があるから、少ない情報でも意図が通じやすい。そんな人間どうしでさえ、言葉が足らなくて通じないことがよくある。共通の文脈や経験のないAIの場合は、もっと丁寧に情報を与える必要があります。書き手にとって当たり前なことも、AIには未知の情報です」

「情報が少ないと、AIはどうなるんですか?」

 

「AIはなんとか推測で補おうとします。その推測が外れたとき、『期待外れ』だとか『AIは賢くない』などと誤解されてしまうんです。実際は与えられた情報の範囲で最善を尽くしているんですが」

 

「なんだか、『ウチの子は本当はデキる子なんです』って弁明しているお母さんみたいですよ、先生(笑)」

 

「破門状書きますから墨と筆を用意してください(笑)」

 

「…冗談はさておき、手を抜かずに必要な情報を与えなさいということですね。さっきの例でいうと『タンサン』なら、『喉が渇いたから炭酸飲料を買ってきて』とか、『電池が切れそうだから単三電池を買ってきて』とか、そういう具合ですね」

 

「その通りです。そして、これは単なる言葉の問題じゃないんです。情報をきちんと整理して伝えることは、人間のビジネスにおいても重要なスキルです。たとえば、部下に指示を出すとき、商談で提案をするとき、お客様に商品を説明するとき。こういった場面でも、適切な情報を過不足なく伝えることが大切でしょう?」

 

「ですね。ということは、AIとの対話が、そういうスキルの練習にもなると」

 

「そうなんです。人間は基本的に情報を『足りなく』する傾向があります。なぜなら、情報を整理して伝えるという作業自体が面倒だから」

 

「確かに面倒です。手間を省きたくて、簡潔に済ませようとしますね。自分も人のことは言えませんが」

 

「だから、楽(らく)なほう…言葉が少ない、情報が足らないほうに走りがちなんです。その結果、AIにとって必要な情報が抜け落ちる。ただ、余談ですが、音声入力を使うと、逆に情報が多くなりすぎることがあるようですよ」

 

「えっ、それはなぜ」

 

「おしゃべりな人だと、思いつくことを次々と話してしまうから。『あ、それとね』『そういえばね』って感じで」

 

「あはは、分かります。私もそうかも」

 

「とはいえ、情報が多すぎるのと少なすぎるのとでは、人間の場合、少なすぎるほうが圧倒的に多いんです。さっきも言いましたように、情報を多く伝えるのは面倒ですから」

 

「先ほどの『タンサン』の例みたいに、言うほうは面倒だからひとことで済ませようとする。それが問題なんですね」

 

「そう。そして大切なのは、AIからイマイチな答えが返ってきたとき、『AIが悪い』と考えるんじゃなくて、『自分の指示のどこが足りなかったんだろう』と考えること。これはAIとの対話スキルを上げる近道でもあります」

 

「でも、どんな情報を与えればいいか、分からないこともありませんか」

 

「そうですね。最初は誰でも戸惑います。でも、次第にコツが分かってきます。たとえば先ほどのキャッチコピーの例でいうと、商品の特徴、ターゲット層、価格帯、販売チャネル、競合商品との違い、ブランドイメージ…こういった情報を整理して伝えることで、AIはより適切な提案ができるようになります」

 

「なるほど。これって、自分の商品やサービスについて、改めて整理するいい機会にもなりそうですね」

 

「その通りです。AIとの対話は『自分の考えを整理するトレーニング』だとも言えます」

 

「そんな見方もあったか」

 

「はい。だから、AIからの回答が期待外れだったときは、『どんな情報が足りなかったんだろう』って考えてみてください。それを意識するだけで、AIとの対話はぐっと深まっていきますよ」

 

「分かりました。人間同士でも、もう『タンサン』のような誤解は起こさないようにがんばります」

 

(この記事は、ChatGPT教室での対話をもとに構成されています)