面倒くさいのビジネスモデル

私たちの時代は、効率化と利便性の追求が至上命題のように語られます。

とりわけAIの登場により、「面倒なことはすべて解消すべき」という考えが、ますます強まっているように感じます。

 

しかし、本当にそうでしょうか。

 

実は「面倒くささ」には、意外な価値が隠されているのかもしれません。

むしろビジネスの世界では、その「面倒くささ」にこそ、新たな可能性が眠っているのではないでしょうか。

 

この記事では、一見すると相反するように思える「面倒くささ」と「価値」の関係性を掘り下げながら、AI時代における小規模ビジネスの新しいあり方を考えてみたいと思います。

文明が発達したのは、

「面倒くさいを解決しよう」

と人類が頑張った結果。

先祖の頑張りのおかげで世の中いろいろと便利になりました。

 

しかしそのせいでしょうか、

 

  • 「便利」は供給過多で安くなった
  • 「不便」は供給不足で高くなった

 

ある意味そんな側面もあるような気がしています。

 

現代社会に生きているとふつうは電気料金、ガス料金、水道料金を毎月払うわけですが、とくに「高額商品」ではありません。

いっぽう、山でキャンプをするために出かけるとしたら、

  • バッテリー
  • ガスボンベ
  • ミネラルウォーター

などを持参するのでしょうが、おそらく都会で過ごすよりも費用がかかっているはず。

 

そもそもキャンプなんて、する必要がありません。

自宅にいるほうが快適に眠れるし、おいしいものも食べられます。

わざわざ使いにくいキャンプ用品を使って炊飯するとかテントを張るとかしなくてすみます。

 

ですが、キャンプをする人たちにはその面倒くささが価値になっています。

その面倒くささにお金を払っています。

それもけっこうな金額を。

 

私たちはついつい

「面倒くささを解決する」

ことでビジネスモデルを考えようとしがちですが、

「面倒くささを楽しみに変える」

という発想も、片や、あるのでしょうね。

 

前述のキャンプのほか、たとえば「農業体験ビジネス」もそうなのでしょう。

水田や畑の草むしり。

とくに有機農業をしている生産者(=農薬をまかない)にとっては単調だし疲れるし、面倒なことこのうえない。

 

しかし「お金を払って」農業体験をしにきたビジターにとっては、その作業が楽しみになります。

この「面倒くささの価値」という視点は、最近のAI活用を考える上でも重要なヒントを与えてくれます。

AIコンサル工房には、「AIで業務を効率化したい」というご相談が寄せられます。

確かにAIには作業を自動化し、面倒な作業から人を解放する力があります。

 

しかし、ビジネスの価値は必ずしも「効率化」だけにあるわけではありません。

むしろ、あえて手間をかけることに価値を見出すビジネスも少なくないのです。

 

たとえば、あるパン職人の方は、レシピ開発にAIを活用しながらも、パンこね作業は意図的に手作業で行っています。

お客様との会話の中で「手ごねならではの食感」を重視する声が多かったからです。

このケースでは、AIはレシピのアイデア出しという創造的な部分で活躍し、「手間」を付加価値に変える判断は人間が行っています。

 

また、個人向けの英会話教室を運営している方は、AIを活用して教材作成の効率を上げる一方で、「添削」の部分はあえて手作業で行っています。

「先生の手書きコメントが励みになる」という生徒さんの声を大切にしたいからです。

ここでもAIは裏方として活躍し、人間にしかできない「温かみのある指導」という価値を引き立てる役割を果たしています。

 

このように、AIの活用は必ずしも「面倒くささの排除」だけを目指すものではありません。

むしろ、「どの面倒くささを残すべきか」「どの手間に価値があるのか」を見極める目を養うことが、これからのビジネスではいっそう重要になってくるでしょう。

 

AIは、私たちに「効率化できること」と「効率化すべきでないこと」を区別する余裕を与えてくれます。

面倒くささを「なくすべきもの」と「育てるべきもの」に分け、後者により多くの時間と創造性を注ぐ。

そんなAIとの付き合い方が、小規模ビジネスの新たな可能性を開くのではないでしょうか。