環境問題と経済活動。
かつては相反するものと考えられていたこの2つが、今や「排出権取引」という形で融合しています。
本気で地球温暖化対策に取り組む一方で、新しいビジネスチャンスも創出する——そんな一石二鳥の仕組みが存在しています。
「排出権取引って、大企業や国家の話でしょ?」と思われるかもしれません。
たしかに大規模な取引はそうですが、その根底にある考え方は、個人事業主や小規模ビジネスでも十分に活用できるものです。
しかも現在、AIという強力なパートナーを得て、その可能性はさらに広がっています。
この記事では、少しユーモラスな「トイレチケット」の例えも交えながら、環境対策とビジネスを両立させる知恵について考えていきます。
そして後半では、AIがこの分野にもたらす新たな可能性についても探っていきましょう。

「二酸化炭素排出権」
という言葉をご存じでしょうか。
(まあまあ古い言葉なのですが)
地球温暖化の主な原因の1つとされている二酸化炭素は、生物の呼吸のほか、
・工場
・輸送機関(自動車・船、飛行機)
などから大量に排出されます。
この排出を制限するために考えられたのが「二酸化炭素排出権」の仕組みです。
1. 政府が、企業などに、排出できる二酸化炭素の量を割り当てます。
2. 企業などは、割り当てられた範囲内で活動を行います。
3. もし割り当てられた量を超えて排出したい場合は、他の企業から割り当てを購入する必要があります。
4. 逆に、二酸化炭素の排出量が少なくて割り当てが余った場合は、その余った分を、ほしい企業に売ることができます。
この割り当てを「排出権」と呼びます。
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ただし、この「余った割り当て」。
そんなものを扱う店は存在しないので、このままでは
・売る側はどうやって売るのか分からない
・買う側はどこで買えるのかが分からない
そこで、政府(や自治体)が
「二酸化炭素排出権取引市場」
という株式市場みたいなものを作り、そこで売買されるようにします。
取引価格は市場原理で動くので、「相場」が上がったり下がったりする。
企業は「余った割り当て」を売れば儲かるので、頑張って「割り当て」を余らせようとする。
つまり、二酸化炭素の削減努力をする。
この構想は、平成の初期のころからすでにありました。
実際、あちこちで試行取引が行われており、遠からず仕組みが整備されるのではないかと期待されています。
なお、そうなると、株式と同じで
「相場が安いときに割り当てを買い、高いときに割り当てを売る」
みたいなことも行われるようになりますが、それはそれで理論上問題がないようです。
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これを、ちょっとヒドイたとえを使って説明してみましょう。
チケットがないと使えない…そんなトイレだけの国があったとします(あ、大のほうね)。
国民は、年間365回分のトイレチケットを政府からもらえるとします。
(この国のスローガン:1日1大)
トイレチケット = 排泄権
筆者のような下痢体質の人は、365回では足りないので、だれかからチケットを購入しなければいけません。
そのお金を節約したいなら、下痢をしないための努力をしなくてはなりません。
いっぽう便秘の人は、(便秘自体は気の毒なのですが)、トイレを使わなかった分、チケットが余ります。
便秘の人は余ったチケットを下痢人間に売ることができます。
(そのお金で便秘薬を買うとかする)
で、その国ではトイレの前に「チケットショップ」があって、トイレチケットを売ったり買ったりすることができる。
チケットの値段は変動します。
安いときに買い、高いときに売るような商売の人も現れます。
トイレ + トレーダー = トイレーダー
ざっとこんな感じです。
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二酸化炭素排出権がトイレチケットと違うのは、
「排出量を削減して、割り当てが余ったというのは本当なのか?」
…を、確認する仕組みが要る
という点です。
企業が自己申告で勝手に「余りました」と言うことはできません。
嘘かもしれないし、思い違いかもしれない。
したがって第三者が客観的に、
「たしかにこの企業は、割り当てよりも二酸化炭素の排出が少ない」
ことを証明しなければなりません。
これは有機野菜にたとえることができます。
有機野菜は、生産者が勝手に「有機農法で作りました」と言うことができません。
認証機関による認証が必要です。
買う方だって、認証がないのに有機農法だと言われても、判断つかないですよね。
同様に、
「たしかにこの企業は、割り当てよりも二酸化炭素の排出が少ない」
ことをチェックする専門家が今後、必要になってくるわけです。
そのような専門家は「炭素会計士」などと呼ばれていますが、ほかにもいろんな名称があり、目下のところ名称は統一されていないようです。
そもそも絶対数がまだ少ない。
今後を見据え、そのための専門家養成制度や資格制度がいくつか立ち上がっているようです。
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前述の「炭素会計士」みたいな職業は、企業の「外部」で仕事をします。
チェックするのが職務ですから、客観的な立場でなくてはなりませんね。
だから、企業の外です。
それとは別に、
「二酸化炭素の排出を減らす方法を考える専門家」
みたいな職業もありえますね。
実際にもいます。
こっちのほうの専門家は、
・企業の「外部」でコンサルタントとして活動する
・企業の「内部」でそれを担当する
どちらのケースもあると思われます。
もう1つ、排出権を売ったり買ったりして差益を得ようとするトレーダーも生まれてくるかもしれません。
これもある種の専門家です。
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まとめます。
二酸化炭素排出権取引は、地球温暖化対策として注目される仕組みです。
この制度では、企業に二酸化炭素排出量の上限が割り当てられ、余剰分を売買可能。
主なポイントは以下の通り:
・排出権の売買は、企業の二酸化炭素削減努力を経済的に促進する
・政府主導の取引市場が整備され、市場原理に基づいて価格が決定される
・排出量削減の確認には、「炭素会計士」など専門家による客観的な認証が必要
・排出削減のコンサルタントや企業内専門家、排出権トレーダーなど、新たな職種も誕生中
この仕組みは、環境保護と経済活動の両立を目指すアプローチです。
今後、制度の整備と専門家の育成が進み、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たすことが期待されます。

「排出権取引」のビジネスモデルは、環境問題という社会課題に経済的インセンティブを組み合わせた興味深い仕組みです。
この仕組みの考え方は、私たちのビジネスにとっても参考になる視点を含んでいます。
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大規模な排出権取引は大企業や国家間の話になりますが、その考え方を小規模ビジネスに応用することは十分可能です。
たとえば、自社の環境対策やコスト削減にAIを活用する方法を見ていきましょう。
個人事業主や小規模事業者でも、エネルギー使用量や廃棄物の削減は事業コストに直結します。
インハウスAIを活用すれば、オフィスや店舗の電力使用パターンを分析し、無駄を見つけることができるでしょう。
「毎週金曜日の夜に空調が稼働したままになっている」といった具体的な発見が、小さなコスト削減につながります。
商品やサービスの「環境負荷の見える化」は、今や消費者の関心事です。
AIを活用して自社商品の環境負荷を簡易計算し、それを差別化ポイントとして訴求することも可能です。
たとえば、「当店のお弁当は、AIによる配送ルート最適化で配送時のCO2を10%削減しています」といった具合に。
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「見える化」という観点では、アプリAIの活用が特に有効です。
小規模事業者向けの簡易的な環境負荷計算アプリは、すでにいくつも存在しています。
飲食店であれば、食材の仕入れ先を選ぶ際にこうしたアプリの活用が考えられます。
地元の生産者から仕入れれば輸送距離が短くなり、環境負荷が減少します。
それをメニューの説明に加えることで、環境意識の高い顧客にアピールできるわけです。
「でも、そんな計算するの面倒」と思われるかもしれませんが、AIがあれば簡単です。
仕入れ先の住所と数量を入力するだけで、輸送距離に基づいた環境負荷を計算してくれます。
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先ほどのたとえ話にあった「トイレチケット」は、とても示唆に富んでいます。
私たちの日常でも、似たようなことを考えてみることができます。
たとえば、小規模事業者が集まって「地域環境ポイント」のような仕組みを作るとしましょう。
各事業者が環境対策を行うと、それに応じたポイントが付与される。
そのポイントは、地域内で使える割引券や特典に交換できる。そんな仕組みです。
実現には複雑な計算が必要そうに思えますが、AIがあればそれほど難しくありません。
分身AI(アバターAI)を活用して、参加事業者からの問い合わせにいつでも対応できる体制を整えることも可能です。
「うちのお店が照明をLEDに替えたら、何ポイントもらえるの?」
「今月の省エネ対策で貯まったポイントで、どんな特典と交換できる?」
こういった質問に24時間対応できる分身AIがあれば、制度の運用もスムーズになります。
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環境コンサルティングというと大げさに聞こえますが、AIの力を借りれば、個人事業主でも始められるビジネスとなり得ます。
たとえば、地元の小売店や飲食店に向けて、AIを活用した簡易的な環境診断サービスを提供するビジネスが考えられます。
電気代の明細、仕入れ先の情報、廃棄物の量などを入力するだけで、AIが環境負荷の「見える化」と改善提案を行います。
コンサルタントは、AIの分析結果をもとに、クライアントの状況に合わせた具体的なアドバイスを提供します。
「うちみたいな小さな店舗でも意味あるの?」という疑問に対して、「小さな取り組みの積み重ねが大切です」と伝えつつ、実際のコスト削減効果も示せれば説得力が増します。
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AIの活用というと、なにか大げさなイメージがあるかもしれません。
しかし実際には、日常の小さな場面で自然に取り入れられていくものです。
「排出のビジネスモデル」の考え方と、AIという新しいツールを組み合わせることで、個人事業主や小規模事業者にも新たな可能性が広がっています。
環境対策はコスト削減につながるだけでなく、顧客へのアピールポイントにもなります。
「トイレチケット」の比喩で語られたように、創意工夫次第でさまざまなビジネスモデルを考えることができます。
AIは、そうしたアイデアを具体化するための強力な味方となるでしょう。