「周辺は充実しているのに中心が手薄な領域」に、しばしば意外な市場機会が潜んでいます。
農業や教育など、さまざまな分野でこのような構造が見られ、そこには新たなビジネスチャンスが眠っています。
このような市場構造を私は「バウムクーヘン構造」と呼んでいます。
この構造を読み解き、そこに潜むビジネスチャンスを最大限に活かすために、AIは非常に有効なパートナーとなります。
本稿では、まず「バウムクーヘン構造」という市場の特徴を解説し、その後、このような構造を持つ市場でAIをどのように活用できるのか、具体的な事例を交えながら見ていきましょう。
AIは決して難しいものではありません。むしろ、私たち文系の事業者だからこそ見出せる、AIの創造的な活用法があるのです。

現代社会は都市化が進んでいることもあり、農業に牧歌的な憧れを持つ人は少なくありません。
いっぽう、日本の農業は、
- 農業従事者の平均年齢が高い
- 耕作放棄地が増えている
といった理由で、将来が危ぶまれています。
国はさかんにそうした農業の危機を国民に伝えようとしています。
自治体はさかんに新規就農者を優遇し、募集しようとしています。
その結果、
「農業をどうにかせねば」「生産者を応援したい」
と考える人は増えました。
ところが、本腰を入れて就農する人は、いまもきわめて少ないのが現状です。
「農業に牧歌的な憧れを持つ人」「生産者を応援したい人」はゴマンといるのに、「就農する人」はとても少ない。
周辺が充実しているのに、中心が手薄。
いわば、バウムクーヘンのようになっています(※)。
したがって、農業分野で新規に事業を作りたい場合、
周辺に群がっている人々をターゲットにビジネスを考える
というのが、ある意味、合理的なのかもしれません。
似たような「バウムクーヘン構造」は、ほかの分野でも見出すことができます。
たとえば、「講師ビジネス」がそうです。
どうやら世の中には、「教えたい人」のほうが「教わりたい人」より多そうです。
だから、
「教えたい人(講師)」をターゲットに教えやすいプラットフォームを提供する
というビジネスが、いろいろと登場しています。
(※)バウムクーヘンでもドーナツでも、どっちでもよかったのですが、個人的好みでバウムクーヘンにしました。

専用AIの時代
このような「バウムクーヘン構造」のビジネスチャンスを見つけ出し、効果的に活用するために、AIは非常に有効なパートナーとなります。
たとえば、農業分野では、「農業に憧れを持つ人」と「実際の農業従事者」の間にある様々なニーズをAIで分析することができます。
インハウスAIを活用すれば、SNSやブログの投稿から、農業に関心を持つ人々の具体的な悩みや期待を深く理解し、それに応える新しいビジネスモデルを導き出すことができるでしょう。
たとえば、農業体験イベントの企画会社が、インハウスAIを活用して参加者の声を分析したところ、「農業体験」そのものよりも「農家の知恵を学びたい」というニーズが強いことが分かったとしましょう。
そこから、ベテラン農家の経験や知恵をAIで整理・体系化し、オンライン講座として提供するという新事業を立ち上げにつながります。
講師ビジネスの分野でも、AIは新しい可能性を開いています。
たとえば、「教えたい人」向けのプラットフォームを運営する際、その講師の個性や専門性を分身AI(アバターAI)として具現化することで、講師の知識や経験を効率的に共有できます。
講師は自身の分身AIを活用することで、より多くの受講生に対して、きめ細かな対応が可能になるのです。
このように、ビジネスにおける「バウムクーヘン構造」を見出し、そこに潜むチャンスを活かすためには、人間の直感とAIの分析力を組み合わせることが効果的です。
AIは膨大なデータから潜在的なニーズを見つけ出し、それを具体的なビジネスプランに結びつける手助けをしてくれます。
特にスモールビジネスのオーナーにとって、このようなAI活用は大きな武器となります。
大手企業が見落としがちな「バウムクーヘンの層」に、小回りの利く事業者ならではのビジネスチャンスが眠っているからです。